『狐福』

カカシ&ナルト。 


   下忍になったばかりのナルト。
   お誕生日おめでとう、な話。

   【 狐福 】 … 思いがけぬ幸福。僥倖。 (@広辞苑)







10月10日は、ナルトにとって一番里に居たくない日だった。

自分が生まれた日。
・・・里が九尾に襲撃された日。


家族を失った者たちの瞳が、常以上に冷たく突き刺さる。
自分のせいではないと思っていても、居た堪れない気分させられた。
それだけならまだしも、直接的に怒りをぶつけてくる者もいたから。

だから、いつもこの日は。
里外れにある森深くに、身を隠すことにしている。
それは、ナルトがアカデミーに入る以前からの、密かな習慣だった。


普段はドタバタと騒がしく、忍と思えないほど気配を振りまいているナルトだったが、
昔から本気で身を隠したいと願った時、植物達が力を貸してくれた。
周囲の自然が豊かであればあるほど、ナルトは上手く身を潜められる。

今は忘れ去られた、鎮守の森か何かなのだろう。
その森には古い社があり、自然の気配も色濃く残っている。
そこからは、どんな人間よりも優しい気配を感じることが出来た。 

ここは、自分を拒絶しない場所。
ナルトにとって、何よりの安息地。

「・・・今年も、よろしくだってばよ。」

森の中でも古株と思える立派な樹に語りかける。
さわりさわり、梢がナルトの声に反応するように揺れた。
それは、彼の来訪を喜んでいるかのようで。
ナルトの顔にも、自然、柔らかな笑みが浮かぶ。

「俺のこと、待っててくれたってば? ありがと!」

瞳を閉じると、そっと大樹に額を押し当てた。
その樹からは、優しい気配と喜びが伝わってくる。
他のどこでも煙たがれる自分を、この森だけは歓迎してくれた。

「・・・俺、ずーっとここにいたいなぁ・・・。」

半分周囲に溶け込みながら、微睡んでいるかのような声で呟く。
甘えるようなその言葉は、普段は言わないナルトの弱音。
無意識の独り言に、思いがけず返事が返ってきたのは、その時だった。

「なーに、馬鹿なこと言ってんの。」


見慣れた隻眼の瞳に呆れた色を浮かべながら、長身がナルトを見下ろしていた。

「カ、カカシ先生! こんな所で何してるってばよ?」
「それはこっちのセリフでしョ。
お前、こんな大事な日に、一人で雲隠れってのはどうなのよ?」

思いがけないカカシの言葉に、ナルトは戸惑う。
確かに今日は慰霊祭のある日だったが、今まで一度だって参加したことはない。

「・・・今日は、俺たち、休みだって言わなかったっけ?」
「違うでしょー。」

カカシは大げさに溜息をついてみせる。

「他に何があるんだってばよ?」
「もっと大切なコト。」
「・・・俺、知らないってば。」


きょとんと首を傾げるナルトに、カカシの隻眼を一瞬だけ痛まし気な色が過ぎる。
誰かが自分の誕生日を祝うことがあるなんて、この子どもは想像もしていないのだろう。

「今日はお前の誕生日、だろ?」
「!」

今日が自分の誕生日であると、他人に認識してもらえるなど思いもしなかったナルトは、
驚きのあまり咄嗟に言葉もなかったが、嬉しかったから、反射的に笑顔を浮かべていた。

「カカシ先生、さんきゅーだってばよ!」 
「さぁて。それじゃあ行くとしますかー。」

ナルトの肩がびくりと揺れる。出来るなら、今日はここから動きたくなかった。
思いがけず、カカシに会えただけで十分である。

「どこへだってばよ? ってか、何で俺も?」
「んー・・・行き先はサスケん家。お前がいなきゃ意味ないでしょ。」

微妙に嫌そうなカカシの答えに、ナルトも驚いた。

「な、なんでだってば!」
「しょーがないんじゃない?アイツの家が一番広かったから、さぁ。」

広いこととどんな関係があるというのか。
質問と答えが、微妙にかみ合っていない気がした。
ナルトは無言のまま、瞳で続きを問う。

「俺としたらね、二人で雲隠れっていうのもアリだったんだけど。
サクラに怒鳴り込まれるんだろうなぁー、イルカ先生と一緒にさ。
今回は、紅もアスマも、連中の味方に付いちゃったしねぇ。
しょうがないから、俺のプランは来年に期待、ってコトで。」

カカシは何を言っているのだろうか。ナルトには解らない。
それに、思いがけない名前まで耳にした気がする。

「・・・紅先生にアスマ先生が、どうしたってばよ?」

「ヤツラもお前が来るのを待ってるんだってさ。
下忍だけなら巻けるだろうけど、さすがにあの二人となるとなぁー。」
「俺なんか、待ってどうするんだってばよ?」
「そりゃ、お前の誕生日を祝うに決まってるでしょ。」

さらりと当たり前のように返される言葉に、ナルトは今度こそ絶句する。

「じゃ、じゃあ、カカシ先生ってば、俺を探すためにわざわざここに来た?」
「お前ねぇー・・・今頃、気が付いたのか。」

呆れたように言うが、その声はどこまでも優しい。

今日は、本当に驚かされてばかりだ。
ナルトの内を暖かいモノが満たしていく。
それはみるみる小さな体を一杯にして、瞳から溢れ出していた。

表情を変えることも声を出すこともなく、ただ涙をこぼし続ける。
それは、子どもの泣き方ではなかったけれど。
カカシは何も言わず、ゆるく腕の中に閉じ込めた。


この森でナルトを見つけたとき、あまりに希薄な気配に驚いた。
樹に向けた顔と言葉に、そのまま消えてしまうのではないかと焦った。
見たことのないほど柔らかい表情は、それだけこの樹に心を許している証。
一体いつから、この日を、一人この場所で過ごしてきたというのか。

この子どもを慰めるのは、こんな樹でなく、自分でありたいと願う。
今まで、樹にしか弱音を吐けなかったこの子を、暖めてやりたい。
カカシは想いの全てを声に乗せて、大切な言葉を伝える。

「ナルト・・・誕生日、おめでとう。」

ナルトはカカシの腕の中で、小さくうなずくのが精一杯だった。




二人が立ち去った後、森の樹々は静かに梢を揺らしていた。

かつてこの森に眠っていたモノを身に宿す、あの小さな子ども。
迎えに来たあの男が傍にいる限り、もうここへは来ないかもしれない。

それでも、遠くから祈っていよう。
想いを乗せて、さわさわと梢は揺れ続ける。


・・・『あの小さな子どもに、幸多からん事を』・・・






                            ~ END ~

   遅ればせながら、ナルト誕生日おめでと~~、って事で。
   タイトルにあんまり意味はないです。辞書を引いていて遭遇しました。
   ナルトにとって、そんな日になればいいな・・・と思います。





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2009年10月15日 | 小話。 | こめんと 0件 | とっぷ

こめんと

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